【小説】神なき天誅 番外編【武市半平太の書】
いつからここにいるのだろう。
連日のように降り続く雨が、狭い格子窓から見える栴檀の木を濡らし続けている。それがここから分かる唯一の景色。じっとりとまとわりつく湿気が、血と土と糞便の臭いをよりきつく感じさせていた。
今日もまた、どこからかくぐもった話し声が聞こえてくる。しばらくすると、それは乾いた打擲の音に変わり、やがて誰かの喉を裂くような悲鳴となって響く。
不意に、引き戸が開かれた。
次いで、雨の音と共にカランコロンと下駄の音が響く。下駄を履ける者はこの土佐藩では限られている。身分の高い武家の者にのみ履くことを許された履物。かくいう私もかろうじて下駄を履くことができる身分ではあるが、足音の主が履いているそれはきっと、私のものより遥かに高価なものだろう。
その音はゆっくりと近づき、やがて私の前で止まった。
「武市半平太」
無慈悲な声が頭上から降りかかる。
「面を上げよ。尋問の時間である」
私は一体どこで間違えたのか。
私の何がいけなかったのか。
私の何が、正しくなかったというのか。
神なき天誅 番外編
武市半平太の書